石崎アイ 〜 生い立ち 6 〜
3、たんぽぽの冒険
ポカポカ暖かい春日和で、アイは縁側で日向ぼっこをしていました。
すると小鳥のさえずりが聞こえてきて、真っ青な大空を小鳥たちが飛んでいたのです。
気持ち良さそうに空を飛んでいる鳥たちを見て、アイはとても羨ましくなりました。
小鳥のように羽があって空を自由に飛べたら楽しいだろうな。
そんなことを思いながらアイは、
庭先に咲いているタンポポの花を見つけました。
お日様の光を浴びて金色に輝いてたくましさを出しているように見えました。
タンポポの横にスミレの花がかわいらしく寄り添うように咲いていて、清々しい風に吹かれて揺れていました。
心の優しいアイは目に見えない自然の何か不思議なものを感じていました。
偉大な力、素晴らしさすごさがあることを肌で感じ取っていました。
アイは自分の手で、タンポポの花に触ってみたくて、土の上を這い出しました。
するとどこから
フワッと風に乗って花のいい匂いがしてきました。
アイは眠くなって、花の香りに乗って綺麗な花の国へ行ってみたいと思ったのです。
そしたら祖母がアイを心配して探していたのです。
「これ、どこまで這っていってるだぁ!ベト(土)だらけになるじゃねか!」
アイは自然と戯れて、
祖母が来たので、思わず聞きました。
「ねぇばあちゃん、綺麗な花の国ってある?アイ行ってみたい、行ってみたい!」
祖母は忙しかったのか、面倒くさそうに少し怒ったように言いました。
「そんなものあるわけねじゃねか、馬鹿め!」
祖母にそっけなく言われて、アイは目を閉じてしまいました。
そして父省吾がアイのために竹で松葉杖を作ってくれたので、杖を使って松葉杖と、転んだり起きたり、一生懸命歩く練習をして一歩一歩歩けるようになりました。
アイは、泥まみれになっても、車椅子から離れて歩こうと頑張りました。ふと見ると、タンポポの綿毛が1本風に吹かれてふわあっと舞い上がりました。そして田んぼや畑に回っていったり、古い小屋に舞い上がったりしていました。あっちこっちの古い小屋の屋根に、それは田んぼのハゼ棒を入れておく小屋です。タンポポの花が咲いていて、まるで小屋が花かんざしをしているように見えました。
私はどこまで飛んでいくのかなあ、 アイは非常に興味を持っていたのです。そんな風景を楽しみながら、いつも夢を描いて希望を持っているアイでした。けれど楽しくしていると、いつも邪魔が入ってしまうのです。弟の敬一がアイのそばへ駆け寄ってきて、機嫌が悪かったのか、わずかばかりのタンポポの花を棒で叩きちぎってしまったのです。アイは悲しくなって泣きながらやめるように言ったけれども、反抗期になっていた敬一はやめるどころか、なお面白がって続けたのです。
アイは非常に腹が立って、敬一と喧嘩をしてしまいました。
「やめろって言うのに馬鹿たれ。くそったれ。寝小便垂れ!」
アイに嫌なことを言われ敬一は悔しくて泣きながら父親のところへ飛んでいきました。父省吾にとって、敬一はかわいい一粒種で、なさに仲のアイが少し憎かったかもしれません。省吾は目をギラギラ光らせ、拳を震わせ怒ってきました。今にも殴り飛ばしそうな剣幕でとなってきたのです。アイはとても怖くて逃げ出したかったけれども、動けないので、その場でしっかり目を閉じたまま、お地蔵様のようになっていました。
「こらぁ、寝小便こきがあるか!敬一が寝小便こきなら我はなんだぁ!飯ばか食らいやがって何もしやがらねくせに何を言うだ!」
子供の喧嘩ぐらいで父親がムキになって怒る必要があったのか、このときアイは母親にすがって思いっきり泣きたい気持ちでした。アイはそんな騒ぎを聞いて驚いたのです。
省吾はこのときとばかりにアイを憎々しげに、まつ江に向かって嫌味を言いました。
「この馬鹿アマめえ!てめえのガキだけのことはあるわ」
まつ江は悔しさで、アイにあたり、イジイジしながら、アイの肩を揺すって泣きました。
「アイ、お前は馬鹿だになんてことを言うズラ、馬鹿!かあちゃんの身になってみろ、本当に馬鹿で馬鹿でどうするズラ」
まつ江は自分の立場がないように言っていたけれど、泣いていました。
アイはないものねだりをして母親に抱きしめられて思いっきり泣きたかったのです。兄弟なのになぜ自分だけがつらい思いをしたり、嫌な思いをしなければならないのか。まだ11歳のアイにはわかるはずもなく、泣きました。
「神様ってひどいや、神様なんているもんか。
みんな歩けるのに、なんで私だけが歩けないんだ何故なんだ。悪いことなんかしてないのに何故なんだかあちゃんの馬鹿!」
アイは泣いて泣いて泣き喚いてどうしようもなく母親にぶつかっていました。
まつ江は泥まみれのアイを抱いて、祖母ミツのところへ連れて行き、まつ江は省吾と子供たちの喧嘩の経緯を聞いて、話して聞かせました。
どうしようもない様子でミツは、目に涙を光らせて笑いを浮かべていました。
たんぽぽはなぁ、根の強いものだからなまたすぐに咲くわさ!アイ、タンポポのようにな、根性のある人間にならにゃ駄目なんだぞ!」
アイが強くなるために、ミツは少し厳しい目つきで言い聞かせました。アイはそんなことを聞かされてもわからないので、一生懸命首をかしげていました。
根っこの強いもの、タンポポには根っこがあるけれど、なんだろう、人間には根っこがないばあちゃん人間の根っこはなんだい。
祖母は笑い出してしまい、最もだというように教えてくれたのです。
「根性だわさ、辛抱強さとど根性だ、アイもど根性で頑張れよ!」
いきなり辛抱強さだのど根性だのと聞かされても、いくら考えてもアイには理解ができませんでした。とにかくアイは思う存分勉強したくて、敬一の使った教科書を全て読みました。
敬一が学校の図書から借りてくる本を代わりに読んで敬一に感想を教えていました。おかげでアイはたくさんの本を読ませてもらい、それが敬一のためにも良かったのです。働くことが好きなアイは、自己流で絵を書いたり、人形を作ったりしていました。そして家に来る人たちがアイの作品を見てとても感心してくれました。そして月日が経って、昭和36年頃から福祉行政が大幅に行われて、福祉制度や福祉施設の完成など、周りの人や福祉事務所の人たちがアイを心配して家まで訪ねてきました。祖母ミツは、家庭内の状況やアイの心境を話すと、福祉事務所では、アイのことや家の事情を全てわかっていて、福祉施設への入所をすすめてくれたのです。アイは子供ながらにこんなつらいところから逃げ出したいと思っていました。しかし、いざとなれば家族と離れ離れになることはアイにとってとても寂しいことでした。