アイの日記 〜宇宙とつながる脳性麻痺のおばあちゃん〜

宇宙とつながるスピリチュアルなアイちゃんの日記です

石崎アイ 〜 生い立ち 12 〜

6、「奇跡は心の奥に眠ってる」

 

信濃整肢療護園では、季節にちなんだいろいろな年間行事が行われていました。 春の学芸会から始まって、お花見、諏訪湖一周巡りと、夏はキャンプ、ハイキング、そして、 紅葉の綺麗な秋は映画鑑賞などでいろいろと楽しい催しがたくさんありました。 春の学芸会が近づくと、1ヶ月前から劇の練習が始まって、みんなそれぞれ練習に張り切ってやっていました。しかし、アイは劇をやることが嫌いになっていたので、 劇の練習と聞くとなぜか重石を乗せられたように気が重くなってしまうのです。

それは毎日の機能訓練で、大きな鏡の前で歩く練習をしているけれど、鏡に映る自分の姿を見るたびに、まるで壊れかかったロボット人形のようで非常に嫌な気持ちでいました。 脳性まひ独特の症状で、自分の意思と全く違った動きになってしまうのです。 運動神経のアンバランスによってなる表情で仕方がないことかもしれない。しかし、アイにしてみれば、自分の不格好な姿をわざわざ人前に見せつけなければならないかと思うと、 どんなに切ない気持ちで悔しい気持ちでいたか、それは誰にもわからないことでした。 そして、周りの看護婦さんとか、綺麗な女性職員たちを見ていると、アイも年頃の女の子として、つい自分も素敵な女の子の姿に夢を見てしまうのです。 アイはだんだん自分が惨めになってしまい、みにくいアヒルの子、よく絵本で見たけれど、そんなことを思い出して泣いていました。 けれど、みにくいアヒルの子は白鳥の子供であって、やがて大きくなると立派な白鳥に成長して飛び立っていったことも知っていたのです。 

みにくいアヒルの子のアイの心境は誰にもわかってもらえないし、それが許されるわけではありませんでした。 学芸会である劇の題名は、「森の小人たちとゆかいな仲間たち」に決められていたのです。 

 

そして、アイは森の動物の熊をやることになっていました。しかし嫌なものは嫌だと、アイは顔をしかめ、駄々をこねたのです。先生方は、アイの心境などわかりっこありません。 だから何か意味深いものを感じたようで、アイを勇気づけさせるため、 厳しい口調になり、意見や説得にかかったのです。
「アイさんあなただけが特別な体をしているわけではないでしょう。ここにいる人たちはね、みんな体が不自由でも負けないで頑張っているのよ。 見てごらんなさい。みんな一生懸命頑張ってるでしょ。 あなたが劇を嫌だと言えば、みんなができなくてできなくなってしまうのよ。 何が嫌なの。例え嫌なことがあっても、訓練なのよ。 さあ、みんなと一緒に頑張ってやりましょうね」
 
みんなが劇の練習をしている場所へグイグイ引っ張られて連れて行かれました。何事も訓練で劇をやることも一つの訓練だと言われてしまえば仕方なく従うしかなかったのです。 先生方の真剣な説得によってアイの心は開かれたのです。 
そして運命のいたずらに鍛えられてつらい思いや悲しいことの繰り返しで、アイの人生はどんどん膨らみかけていきました。
 
いよいよみんなの楽しみにしている学芸会の日が来て、大勢のお客様や父兄の人たちが学芸会を見て、見に来てくださることで、子供たちは朝から大喜びでした。 アイは劇のことが心配で、みんなのように喜べる心境ではなかったのです。 嫌なことは言っときも早く終わってほしいと思う願うばかりです。 そしていよいよ先生方のマイクロホンを使った司会が入り、劇の題名が紹介されました。 
「次は森の小人たちと愉快な仲間たちです。 お父さん、お母さんに見てもらおうと、みんなこの日のために一生懸命練習をしました。 森に住んでいる小人の木こりさんたちが仲良く森の動物たちと暮らしていました。 はい。それでは皆さん、大きな拍手をお願いいたします」
マイクロフォンから流れる言葉に、お父さんお母さんたちは元気に出てくる我が子たちの姿を見ると、ハンカチを目に当てながら一生懸命拍手を送ってくれました。 

 

みんなかわいいペンギンのように元気よく舞台の中央へ飛び出してきたのです。 アイは後から森のくまさんや区でクマのお面をかぶって出てきました。 冬眠から目を覚ましたクマが目を擦りながら出てくるシーンでしたけれど、舞台の中央まで出たのはいいが、脳性まひ独特なアテトーゼの緊張感に襲われてしまったのです。 体がカチカチに硬直してしまい、足が動かなくなり、歩けなくなってしまいました。 転んでは起きてまた転んでしまう、それこそ壊れかけたロボットのような姿でした。 
アイが必死でやってる姿が、皆さんにはとても面白く受けてしまったようでした。 そして劇のメンバーも笑い出してしまい、少し困った様子で戸惑っていたのです。 アイや、みんなの格好が面白かったと見えて、お客様を笑い出したのです。 その時大勢の客席の中から頑張ってという励ましの声がかけられたのでした。 どうなることかと先生方も心配そうに見ていたけれど、笑いを含ませて、陰で一生懸命マイクで言葉を入れて応援してくれました。 
 
「おやおやどうしたことでしょう。森のくまさん、転んでしまいましたね。大丈夫でしょうか? お酒を飲んで酔っ払っているようですね。おやおや。 仲間のみんなが助けに来ましたよ、よかったですね。熊さん、熊さん頑張ってください」
 
 アイがメンバーに支えられて立ち上がると、みんな拍手をしてくださいました。 綱渡りでも見ているような駅で、 ハラハラドキドキでしたけれど、無事終わることができてみんなほっとした気分です。みんなの協力によって、アイは勇気が出て自信がついたことはとても嬉しいと思ったけれど、しかし劇をやることはもうこりごりだと思いました。 
 
学芸会が終わって、今度は綺麗なお花見の季節になって、 桜の花が満開に最低。 青々と広がる空から花びらがひらひら舞い落ちる桜の下に、お座敷のようにござを敷いてもらって、花の国の子供たちのように振る舞い踊る花びらと一緒になって大喜びで飛び回っていました。 動けない子供たちも、 御座の上に寝かされたまま、顔に花びらが舞い散ると、赤ん坊のようにキャーキャーと喜んで楽しく している姿は、優しい天使のように見えました。 
 
そして、お昼には美味しそうなおにぎりが2個ずつみんなの前に用意されました。 おにぎりの海苔の香りがしてたまらなくお腹がすいてしまいます。 アイは自分で食べられ食べながら食べられない子供におにぎりを食べさせてやると 「アイちゃんって優しいのね」と、言語障害であまり喋れない子供たちが懸命に喋ってくれたのです。 ご飯をこぼしながらも、外で食べるおにぎりは、懐かしい故郷の美味しい味でした。 その後、諏訪湖の遊覧船に乗って、諏訪湖一周巡りをして、とても楽しいひとときでした。